大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪簡易裁判所 平成3年(ハ)4746号 判決 1993年2月24日

主文

被告は、原告に対し、金六五三、五二一円及び内金二一一、三三五円に対する平成三年三月六日から、内金四三三、一六五円に対する同年四月六日から、内金六、七〇四円に対する同年五月七日から、内金二、三一七円に対する同年六月六日から各完済の日の前日までいずれも年一割四分五厘の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

理由

第一  請求

主文と同旨。

第二  事実の概要

一  請求原因の要旨

(一)  原告は、国内電気通信事業及びこれに付帯する業務を営む、日本電信電話株式会社法に基づく株式会社である。

(二)  原告は、平成二年二月二六日、被告との間に、次の約旨のもとに電話加入契約を締結した。

1 電話番号及び設置場所は、別紙「電話目録」記載のとおりとする。

2 料金の支払は、毎月、基本料金は毎月初日から末日までの分を、右以外のダイヤル通話料金等は、毎月、前月六日から当月五日までの分を、ダイヤル通話料金等の右締切後一か月経過後を支払期日として原告の営業所に持参又は送金して支払うものとする。

3 遅延損害金は、料金の支払期日の翌日から支払済みの前日まで遅滞料金に対し年一割四分五厘の割合とする。

(三)  原告は、平成元年九月から大阪地区において、外国語ニュース、スポーツニュース、株式情報等に関する、電話を利用する有料情報サービス業務を開始した。

原告は、右有料情報サービスを行うにつき、国内電気通信事業に付帯する業務として、電話サービス契約約款に「有料情報サービスの利用者は、情報サービス提供者に支払うべき当該サービス料金等について、これを原告がその情報提供者に代つて回収することを承諾するものとする」旨の有料情報サービスの情報料の回収代行業務に関する条項の追加変更を行い、その旨郵政大臣に届出し認可を得た。

そして、右約款の追加変更は、原告の各事業所において店頭掲示することにより加入電話契約者に通知した。

なお、有料情報サービスの開始は、その頃、全国各新聞紙上で広告して一般に知らしめた。

(四)  被告は、前記電話加入契約に基づく加入電話を利用して情報提供を受けた。それらの料金等は別紙「料金表」記載のとおり合計金六五三、五二一円となるところ、同「料金表」記載の各料金につき各支払期日(最終支払期日は平成三年六月五日)までにこれを支払わない。

(五)  よつて、原告は、被告に対し、別紙「料金表」記載の各料金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みの前日まで前記約定利率による遅延損害金の支払を求める。

二  被告主張の要旨

(一)  請求原因一項及び同二項1の事実は認めるが、同二項2、3の事実は不知。

(二)  請求原因三項の原被告間における有料情報サービス契約の成立は否認する。

電話加入者との間で有料情報サービス契約が成立したといえるためには、原告は、有料情報サービスに関する約款の追加変更について郵政大臣の認可を受け、変更約款を各事業所に掲示するほか、個々の電話加入者に対し約款の変更及びその内容である情報提供サービスのシステム等の詳細を直接に通知説明して周知させ、加入電話をもつて右システムの利用を望むかどうかの選択をさせたうえ、利用を望まない者には「利用規制措置」を講じるべきである。

有料情報サービス開始のような電話加入者にとつて重大な影響を及ぼす事項の通報について、原告のとつた措置は、加入者の利益を無視し、日本電信電話株式会社法並びに電気通信事業法にいう公共の福祉の増進という責務、目的を忘れて自己の利益追求のみを図るものというべきであり、電話加入者の十分な理解のないままに一方的に契約の成立を押しつけることに帰し違法である。

変更された約款を各事業所において店頭掲示するだけでは周知手続として不十分であり、加入契約者の承諾を得たものとは到底いえない。

又、原告が情報提供業者のために料金の回収を代行するということも、原告の公共的性格や設立目的、責務に照らすと違法である。

(三)  請求原因四項中、有料情報サービスに関する主張部分は否認するが、その余は認める。

被告は本件加入電話を使用して原告主張の如き情報提供を受けたことはない。原告主張の情報サービスの利用者は第三者であるが、被告は自己以外の利用者の情報料を支払うことを承諾したこともない。

又、情報サービスの利用者が第三者である場合であつても、情報提供者と当該利用者との間に個々の情報提供契約は成立していない。即ち、情報提供者側の音声による一方的なガイダンスだけで、これに引き続き情報が流されたからといつて個々の情報提供契約が成立したとはいえない。

三  争点

(一)  原被告間における有料情報サービス契約の成否。

(二)  情報提供者と利用者との間における具体的情報提供契約の成否。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実と《証拠略》によると、請求原因一項及び同二項1ないし3の各事実が認められる。

二  有料情報サービス契約について

《証拠略》を総合すると、

(一)  有料情報サービスシステム(ダイヤルQ2システム)と称するものは、加入電話等を利用して、0990とこれに続く六桁の番号をもつて架電し、通話によつて、情報提供者(原告との間に、料金の回収代行契約の成立している業者)より、有料で、外国語ニュース、スポーツニュース、株式情報等の情報を受けることができ、利用者の情報提供者に対する情報料の支払は、原告が情報提供者に代つてダイヤル通話料と合せて、利用者より回収し、これを情報提供者に支払うというサービス業務のシステムである。

(二)  原告は、国内電気通信事業に付帯する業務として、平成元年七月から東京地区において、同年九月から大阪地区において、前記有料情報サービス業務を開始し、これに先立ち同年五月頃、後記のとおり、電話サービス契約約款の追加、変更を伴い、電気通信事業法に基づき郵政大臣の認可を受け、その後右変更約款を各事業所の店頭に掲示し、又、そのサービス内容については全国の一般新聞紙上に掲載して広告した。

(三)  追加、変更された約款の主な内容の要旨は次のとおりである。

同約款第一六二条は、「有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等からの場合は、その加入電話等の契約者とします。以下同じとします。)は、有料情報サービスの提供者に支払う当該サービスの料金等(有料情報サービスの利用の際に、情報提供者がお知らせする料金及び延滞利息をいいます。以下同じとします。)を当社がその情報提供者に代つて回収することを承諾していただきます。」旨規定し、右有料情報サービス契約においては、原告が情報提供者に代つて当該情報料の回収をすることを、利用者において承諾すること、有料情報サービスの利用が加入電話等(加入電話及び有線放送電話接続電話をいう。以下同じ。)からの場合においては、現実の利用者が加入電話等の契約者以外の第三者であつても、加入電話等の契約者をもつて当該情報料等の支払負担者と固定することをもつて主要な要素とすることを明らかにしている。なお、同条の右本文に続く但し書において、加入電話契約者については、原告による有料情報サービスの料金等の回収代行を拒否することができる旨を定めている。

又、同約款第一六三条は、「当社は、前条の規定により回収する有料情報サービスの料金等については、ダイヤル通話の料金及びその延滞利息に含めて当該サービスの利用者に請求します。」旨規定し、その他回収方法を定めている。

(四)  なお、原告は、番組内容の青少年への影響を考慮し、あるいは高額情報料となることを防止するため、平成二年一〇月三〇日から、有料情報サービスシステムを希望しない者のために、右の利用ができないように交換機に工事を施すことによる規制措置を行う制度を設けたが、被告は本件加入電話については当初の段階において右の規制措置を求めていない(《証拠略》によれば、その後平成三年二月二二日に有料情報サービスの発信規制工事が施されている。)。大要、以上の事実が認められる。

右事実によれば、原告は平成元年五月頃有料情報サービスシステムを導入するため、情報料等の回収代行とその支払負担者に関する事項を契約約款に追加して約款を変更し、右変更約款は加入電話契約者等に適式に開示、報知され、発効するに至つたものと認めるのが相当であり、その結果、原被告間においても右の追加変更約款に基づく有料情報サービス契約が成立するに至つたものといわねばならない。

従つて、右契約によれば、本件加入電話を使用しこれから情報の提供を受けた者がある場合には、原告は、情報提供者に代つて自己の名をもつて、本件加入電話契約者である被告に対し、利用者として、当該情報料等を右ダイヤル通話料等と合せて請求することができるものというべく、他方、利用者側については、現実に情報提供を受けた者が本件加入電話契約者である被告であろうと、同人の家族であろうと、その他第三者であつても(もつとも、本件加入電話に対する被告の支配・管理が及んでいないような異常な利用形態の場合は除かれるべきである。)、本件加入電話契約者である被告が利用者として当該情報料等の支払義務を負担するものといわねばならない。

ところで、被告は、変更された本件契約約款の開示、通報については、事業所に掲示し、あるいは一般新聞紙上に広告をするだけでは足りず、個々の加入電話契約者に対して直接に変更内容を通知、説明して周知させ、導入されたシステムを利用するか否かの選択の機会を与えるべきであつた。そのような方法が採られていない以上、変更約款は加入電話契約者に対して効力を生じていない旨主張する。

契約約款ないしその変更が実効性を有し、これによる契約が拘束力を得るためには、それが公示ないし開示され、相手方によつて認識可能な状態に置かれなければならないことは勿論である。そして、右公示ないし開示方法としては、一般に不特定多数の者を相手方とすることが予定されている約款においては、事案の性質上、貼札、掲示、新聞広告などの一般的広告方式が採られることが多い。電気通信事業法第三二条第一項は、「第一種電気通信事業者は、郵政大臣の認可を受けた契約約款を、営業所その他の事業所において公衆の見やすいように掲示しておかなければならない。」と、同法第一一一条本文、第二号は、「第三二条第一項の規定に違反して契約約款を掲示しなかつた者は、十万円以下の罰金に処する。」と定めている。右規定は、第一種電気通信事業者に対し、約款の公表、開示義務を課し、その開示方法として事業所における掲示を命ずるとともに、それをもつて約款は相手方となるべき加入電話契約者らにおいて認識可能な状態に置かれたものとする趣旨と解される(なお、同旨の規定は、道路運送法第一三条、海上運送法第一〇条、港湾運送事業法第一二条、通運事業法第二二条、電気事業法第二〇条、ガス事業法第一九条、航空法第一〇七条等に見られるところである。)。

原告が、本件変更約款について、法の要請するとおり、事業所の店頭において掲示を行つたことは前記認定のとおりであるから、本件変更約款は前示のとおり加入電話契約者との間に実効性を有するに至つたものというべく、原告の前記措置が周知方法として不足ないし違法であるという被告の主張は採用し難い。

なお、《証拠略》によると、被告は加入電話の賃貸、売買などの電話取引を業としている者であることが認められるから、被告は、原告の有料情報サービス業務に関する前記契約約款の追加、変更を、その当時、了知し得たものと推認される。そうすると、この点においても被告の前記主張は採用できない。

更に、被告は、前記主張に付随して、原告と情報提供者との間の情報料回収、代行契約は違法である旨主張する。しかし、《証拠略》によつて認められる、情報料回収代行サービスに関する契約書の各条項(第五条によれば、情報提供者は、その提供する有料情報サービスの情報内容について、倫理審査機関の審査を定期的に受けることが義務づけられている。その他、回収代行の対象となる料金の測定及び請求方法についての事前承認、利用者に提供する情報サービス等の提供条件の開示などに関する定めがある。)並びに関係法規によつて認められる原告の目的、責務等の公共的性質等を彼此検討しても、右情報料回収契約を違法とするに足りない。右主張は理由がない。

以上要するに、被告は本件加入電話を使用してなされた有料情報サービスの利用による情報料及びこれに要したダイヤル通話料について、その利用者の何人であるかを問わずその支払義務があるものといわねばならない。

三  具体的情報提供契約について

(一)  有料情報サービスシステムの要点は前示認定のとおりである。そして、右事実及び弁論の全趣旨を総合すると、利用者が特定の加入電話から自己が欲する情報を有する情報提供者に対してダイヤルQ2に架電すると、原告の有料情報サービスに関するコントロールシステムから「このサービスは、情報料と通話料を合わせて〇〇秒に約一〇円の料金がかかります。」という音声によるガイダンスが流されるが、利用者がそれを聞いて電話を切らなければ引き続いて情報を受け取ることができるし、又、情報の提供を拒否したければ電話を直ちに切ればよいという仕組みになつていることが認められる。従つて、利用者がダイヤルQ2に架電し、音声によるガイダンスを聞きながら、敢えて電話を切らずに情報を受け取れば、その段階において情報提供者と利用者との間に個々的に具体的に有料情報提供契約が成立するものと解するのが相当である

(二)  そして、《証拠略》を総合すると、被告が加入電話契約者である本件加入電話が一般通話及び有料情報サービスに利用されたこと、その平成三年一月五日から同年五月三一日までの間におけるフリーダイヤル通話料などの一般通話料及び有料情報サービスの利用関係における、情報料を含むダイヤル通話料が別紙「料金表」記載のとおりであることが認められる。なお、有料情報サービスの利用による情報料の延滞の場合における延滞利息についても約款第一三一条の適用があり、年一四・五パーセントの割合による利息を支払うべきものと解される。

第四  結び

以上のとおりとすれば、原告の本訴請求は全て理由があるからこれを認容すべきである。

よつて、民訴法第八九条、第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 諸富吉嗣)

《当事者》

原告 日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役 児島 仁

右代理人支配人 貝淵俊二

右訴訟代理人弁護士 高野裕士

被告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 川崎敏夫

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例